Supported by SPARK Global and KSAC (Kansai Startup Academia Coalition)
これはスタンフォード大学医学部教授ダリア・モシー=ローゼン博士(Daria Mochly−Rosen、以下Dariaと記載)が、開催10周年を迎えたHealthcare Venture Conference (HVC) Kyoto 2025 Demo Dayの基調講演で語った冒頭の一言である。
その言葉には理由がある。日本のスタートアップ環境は拡大しているものの、依然として「大きな夢を抱き、リスクを取ることを恐れない起業家」の数は十分とはいえないからだ。


こうした課題意識のもと、KSACでは京大病院iACTのビジネスディベロップメント室長である小栁智義は、「BIE(Biomedical Innovation and Entrepreneurship)」ワークショップをHVC Kyoto Demo Day直前に開催した。このワークショップは、科学的アイデアをもとに未充足医療ニーズを解決する商業的に実現可能な製品設計を学ぶプログラムであり、研究者、医師、起業志望者を対象としている。
ワークショップを率いたのは、オーストラリア・シドニーのCIMR(Centre for Innovative Medical Research)所属のDr. Isabella Hajduk博士(以下、Isabellaと記載)である。彼女と同僚のProf. Michael Wallach(以下、Michaelと記載)は、修士課程向けに本コースを開発し、10年以上にわたり「研究室の外で考える」研究者の育成に努めてきた。
このコースはその後2週間に短縮され、SPARKプログラムに統合された。SPARKは19年前にDariaがスタンフォード大学で設立したアカデミアと産業界をつなぐトランスレーショナル・リサーチの教育プログラムであり、現在はオーストラリアや台湾を含む約30カ国で展開されている。SPARK台湾のディレクターであるProf. Jane Tseng(以下、Janeと記載)も、今回の京都BIEワークショップにアドバイザーとして参加し、日本でのSPARK本格展開を象徴する場となった。

3日間にわたる集中ワークショップでは、日本とオーストラリアの研究者(SPARKees)による5チームが、研究をベースに事業化をめざしてアイデアを練り上げた。参加者は10カ国から集まった研究者と経営学専攻の学生で構成され、多様性に富んだ構成となった。
Isabellaに加え、京都大学経営管理大学院のウィル・ベイバー教授(Prof. Will Baber)、スタンフォード大学の池野文昭研究員(Dr. Fumiaki Ikeno)、シリコンバレーを中心に活動する法務・知財のエキスパートであるデヴァン・タコール博士(Dr. Devang Thakor)らによる短い講義を受けた後、参加者たちはすぐにチームワークへと移行。最終的にどのチームも個性的で魅力的なプロジェクトを発表し、審査員は優劣をつけるのに苦労した。


提案されたプロジェクトには、AIによる対話支援デバイス、アジア初のAI駆動マイクロバイオーム健康管理ツール、致死的不整脈の新規治療法、小型抗体ベースの不眠症治療薬などがあった。最終選考チームは、「AI駆動型心電図による心不全早期検出」をテーマに、HVC Kyoto Demo Dayで大手製薬企業やVCの前で発表し、他の22の有望なヘルスケア系スタートアップと並んで注目を集めた。

参加者は「チームで働くのが楽しく、洞察に満ちたが、難しかった」と語り、夜を徹して議論を重ねた。「昨夜は3時間しか寝ていませんが、この機会に心から感謝しています。本当に楽しかったです」と語る参加者もいた。



Isabellaは振り返ってこう述べた。
「全チームに感銘を受けました。彼らのチームワーク、最終発表は素晴らしかったです。特に経営学の学生たちが科学的なアイデアをすぐに理解していく姿は驚きでした。」
学生たちは、ビジネスモデルキャンバスなどのツールの実践的価値や、多様性の重要性を実感したと語った。また、起業には事前準備と労力が必要であること、教授・技術者・メンターと直接協働できる貴重な機会だったことを挙げた。特にピッチの練習と改善の機会が大きな魅力だったという。
最終選考チームを発表する際、Dariaは「どのプロジェクトもそれぞれに価値がある」と称賛し、参加者たちに情熱を持ち続けるよう励ました。自身が心筋梗塞治療薬を開発するためにKai Pharmaceuticalsを設立した当時を振り返り、「私は準備ができていないと思っていました。学者として、それは自分の仕事ではないと感じていた。でも、患者に届けたいという思いが疑念より強かった」と語った。結果として、彼女は2,700万ドルを調達し、会社はアムジェンに買収され、薬は市場に到達したという。
「60回くらいピッチしたと思う。そのたびに何かを学び、少しずつ良くなった」と笑顔で振り返った。

この日本で初めてのBIEワークショップは、世界中から集まった専門家たちを結びつけ、協働の力を改めて示した。
「人々の生活をより良くしたい」という情熱を形にするために、ぜひ、BIE Japan 2026にご参加ください。

文:Larisa Sheloukhova(監訳:小栁智義)
| Day 1 6月28日 |
開会挨拶 |
|---|---|
| SPARKeeによるプロジェクトピッチとチーム形成 | |
| 課題と機会の定義 | |
| ソリューションと製品の構築 | |
| 概念実証(PoC)の計画 | |
| Day 2 6月29日 |
ビジネスモデルの概要 |
| ピッチの伝え方 | |
| ショートピッチの準備 | |
| ショートピッチ発表(全体)とフィードバック | |
| Day 3 6月30日 |
最終ピッチの練習(個別)とフィードバック |
| 最終ピッチの修正 | |
| 最終ピッチ発表 | |
| 審査員による協議、受賞者発表、および閉会の挨拶 |
参加者からは、最前線で活躍するアカデミアおよび産業界のメンターから学び、集中的なチームワークやグローバルな協働の機会を通して「挑戦的でありながらも有意義な体験だった」との声が多く寄せられました。今後も、皆さまからいただいた貴重なフィードバックをもとに、プログラムのさらなる向上に努めてまいります。

Professor Michael Wallach

Dr. Isabella Hajduk
バイオメディカル・イノベーション&アントレプレナーシップ(BIE)コースは、私にとって最初の構想段階から本当に素晴らしい経験となりました。
これまで多くの国や大学を訪れ、キャリアのあらゆる段階にいる若い人たちと共に取り組んできました。
その中で確信したのは、BIEは確実に機能し、人々の中に眠る創造的な可能性を引き出すプログラムであるということです。
学生、臨床医、研究者のいずれも、このコースを修了する時には、専門的にも人生的にも「自分にとって大きな変化が起きた」と実感しています。
この成果を目にすることは、私にとって大きな喜びであり、初期の段階からそれは明らかでした。
そして、このことは日本で教えた経験において、これまで以上に強く感じられました。
わずか数日間の授業の中で、学生たちがイノベーティブで起業家的な姿勢へと変化していく姿を目の当たりにしてきました。
バイオメディカルサイエンスやヘルスケア分野に携わるすべての人に、心からこのBIE Japanのプログラムをおすすめします。
(Professor Michael Wallach)